離婚を考えている人へ

離婚を考えている人に参考になる映画の話をします。オスカーにもノミネートされている『Marriage Story』です。離婚のプロセスがリアルに描かれていると同時に、美しい映画です。

アメリカでは2組に1組が、日本では3組に1組が離婚するとされますが、この映画はアメリカのロサンゼルスが舞台です。

何がリアルかといいますと、まず離婚をするためのカウンセリングでスタートします。そうです。離婚を回避するためでなく、離婚を平和的に行うためにカウンセリングを受けます。どの夫婦も友好的な離婚を望み、調停者を立て、弁護士を介さない方法をまず考えます。

 

しかしこの映画の夫婦も、多くの夫婦同様、ひょんなきっかけで一方が弁護士を雇い、もう一方もやむなく弁護士を雇わざるをえなくなります。さらには弁護士を乗り換えます。弁護士料は1時間950ドルなどとリアルです。争点は子どもの養育権とお金。これもリアルです。8歳の子供を奪い合う壮絶な戦いが始まります。

この映画の救いは、2人にはどこか愛情がまだ残っていることです。お互いを慮るシーンもあります。しかし、上記のように、自然にと言いますか、戦いが知らないうちにエスカレートしていきます。2人の手を離れていきます。子供の養育権を争う法廷シーンでは、弁護士同士が壮絶な、歯に衣着せぬけなし合いを行います。相手の浮気、飲酒、全てにつけこんで自陣に優位に進めようとします。

 

さらにリアルなのは、養育の能力を評価する専門家が、家を訪れるシーンがあります。子供と親が食事をする様子、住環境の適切さなどを無表情に観察します。

 

いつしかお互い、弁護士にかけるお金を厭わなくなります。お互い愛情は残っていたのに不思議です。全面戦争が始まります。1人の心ある弁護士が一時的に人間味を思い出させますが、それでは相手方に打ち勝てません。弁護士は、少なくともこの場合、人間味を持っていたらできない決して清廉でない職業です。

 

「きっと出口はある」と人に言われますが、終わりの見えない戦いの中で、お互い憎しみを持つように変わっていきます。夫婦が罵倒しあうシーンは、とてもリアルですが、本当に起きるリアルです。

これらの血で血を洗う争いのプロセスを知れば、離婚を簡単に口にできなくなるでしょう。そして映画の美しくも悲しい点は、憎しみと怒りの繰り返しのなかで、2人の残された愛情が交錯するからです。最後は離婚が成立し、子どもへのコペアレンティング(共同子育て)がまず唯一の接点となります。それは新たな日常ですが、何か虚無な余韻を残します。なんとも虚しい結末です。でも、なぜかそこに美しさも感じます。離婚という人工的で手垢まみれのプロセスのなかに、もみ消されてしまいそうに見え隠れする、お互いへの愛情の残り香があるからのようです。

主演のスカーレット・ヨハンソンは、「離婚は失敗ではない」という言葉を引用し、結婚に10年なりの時間を賭したわけだからと (Scarlett Johansson Talks Marriage Story in the Corner Booth)、この作品がラブストーリーであると表現しています。もう一方の主演アダム・ドライバーは、やはり「エンディングが来ることがわかっているラブストーリー」と表現しています (Adam Driver: "Marriage Story" Is A Love Story About Divorce)。

なんともやりきれない、離婚という現象を素晴らしく的確に表現した映画です。終焉への秒読みと喧騒のなかに、ヒューマンネイチャーがあぶり出されています。