自然と脳
人類の進化6~700万年の中で、産業革命後の都市化は、時間にしてほんの0.01%未満です。つまり、私たちは99.99%以上の時間を自然で過ごしてきたのです(*1)。
今後都市化はさらに進むと予測され、2050年までに68%の人々が都市に住むとされます(*2)。それに伴い、メンタルヘルスの問題が増加することが懸念されています(*3)。実際、インドやアフリカに並び、特に都市化の激化が予測されている中国では、人口密度の高い都市でうつの指標が高いことが示されています(*4)。(ちなみに、マイノリティの人種でもその傾向が示されています)。
こういった流れの中で、自然への回帰が求められています(第74回「自然と脳」)。
「森林浴」は、1982年に農林水産省・林野庁長官の秋山智英氏により提唱され、海外では「Shinrin-Yoku」あるいは「Forest Bathing」として広く知られてるようになりました(*5)。森林浴、そして自然に触れることの効果について、最新の報告いくつかをご紹介します。
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2019年5月のファロウらの研究では、森林浴の不安への効果が複数の研究からまとめられています。森林浴は不安を低下させることが総じて示され、副交感神経が有意になる(リラックスした状態)ことがHeart Rate Variability (HRV)という心拍数の揺らぎを用いた指標からわかっています。うち日本からの研究では、485人の若い男性を対象に森林あるいは都市を15分歩く間に変化がみられたとされています(*6)。
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北シドニーがんセンターのオーらによる報告は、複数のランダム化比較試験に基づくより洗練された解析です。森林の中にいることが健康に多岐にわたって好影響を及ぼすことが示されています(*7)。高血圧、心臓肺機能、免疫機能、炎症、酸化ストレス、ストレス、ストレスホルモン、不安、うつ、そして感情反応といった指標に効果がみられました。
幾つかの研究が指摘しているとおり、自然、森林浴の効果についての研究はまだ途上段階です。今後さらに研究が増えてくることは必至で、将来の予防医学として期待されています(*1)。
参考文献》
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Song, C., Ikei, H., & Miyazaki, Y. (2016). Physiological effects of nature therapy: A review of the research in Japan. International journal of environmental research and public health, 13(8), 781.
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United Nations. (2018). 2018 revision of world urbanization prospects.
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Szabo, C. P. (2018). Urbanization and mental health: a developing world perspective. Current opinion in psychiatry, 31(3), 256-257.
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Chen, J., Chen, S., & Landry, P. (2015). Urbanization and mental health in China: linking the 2010 population census with a cross-sectional survey. International journal of environmental research and public health, 12(8), 9012-9024.
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Hansen, M. M., Jones, R., & Tocchini, K. (2017). Shinrin-yoku (forest bathing) and nature therapy: A state-of-the-art review. International journal of environmental research and public health, 14(8), 851.
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Kobayashi, H., Song, C., Ikei, H., Park, B. J., Lee, J., Kagawa, T., & Miyazaki, Y. (2018). Forest Walking Affects Autonomic Nervous Activity: A Population-Based Study. Frontiers in public health, 6, 278.
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Oh, B., Lee, K. J., Zaslawski, C., Yeung, A., Rosenthal, D., Larkey, L., & Back, M. (2017). Health and well-being benefits of spending time in forests: systematic review. Environmental health and preventive medicine, 22(1), 71.