「セリーナ・ウィリアムズと怒りの心理学」(怒りとこころ2)

日本人の大坂選手が優勝したテニスのグランドスラム大会US Open。もう一つの話題は、対戦相手、セリーナ・ウィリアムズ選手の怒りの暴走でした。ルール違反に対して警告があり、それを不服としたウィリアムズ選手は激しく反論、結果さらなる警告を呼び、試合を失う一端となりました。アンパイアの警告前の手順に不備があったとか、ウィリアムズ選手が主張した「セクシズム(性差別)」があったとか、いろいろ議論はありますが、この際それは話題としません。今回のテーマは、ウィリアムズ選手に見られた典型的な怒りのパターンです。

かつて「不安」を擬人化したのに習って、「怒り」君の性質を列記しましょう。

1.直情的である

着火した途端、凄まじい瞬発力で火の手を上げ、誰にも止められません。「扁桃体ハイジャック」と言われる、理性脳の前頭葉を感情脳の扁桃体が上回る状態で、もう抑えが効きません。この状態になると、今回のウィリアムズ選手のよう に、言葉の繰り返しが増える、人へ向けて指を立てる、大きな声になる、泣く、フィジカルに人を圧倒する、などの行動変化が見られます。

 

2.二つの顔を持つ(諸刃の剣)

自律神経を介した「アドレナリン」の増加を伴います。このアドレナリン、最初は人のパフォーマンスを上げますが、さらに上昇すると、パフォーマンスのピークを迎え、そこからさらに増加すると、パフォーマンスは逆に下がります。つまり、逆Uシェイプです(不安君もそうですね)。ウィリアムズ選手とて、アドレナリン・サージ(上昇)がパフォーマンスをいつまでも比例的に上げるわけではないのです。

 

3.我田引水である(言い訳上手)

怒りの問題のある人は、自分の正当化に執心するという傾向があります。かつて、スティーブ・ジョブズさんが、「現実婉曲」能力があると言われました。つまり、現実を曲げてでも自分の意見を正当化することに優れていたのです。彼の怒りの問題は、ご存知の方も多いと思います。ウィリアムズ選手は、「女性の地位のために戦い続ける」とセクシズムが今回の問題と位置づけました。そういった意味もあったのかは置いておいて、ある一面だけを取り上げている傾向はうかがえます。よく言えば、ディベート(討論)に強い人たちです。しかし、ディベートとの大きな違いは、冷静な理論だったやりとりでなく、(前頭葉がオフ状態で)感情が主導権を握っている点です。

 

4.謝らせるのが好き

3の「我田引水である」とも関係しますが、怒りのある人は、自分が優位であるべきと信じている節があります。自分が一番強いと思っているかもしれません。人より上にいると思っているかもしれません。ウィリアムズ選手は、「あなたは私に謝るべき」との発言をアンパイアへ向かって繰り返しています。あなたが間違っている(私が正しい=上記3)と同時に、自分があなたより上位であることを確認しようとする行為です。相手に謝らせるという行為は、怒りを持った人に比較的見られやすいのです。また、ウィリアムズ選手は試合後の会見で、「自分はズル(チーティング)をしなくても勝てる」と言っています。自信はスポーツにとって欠かせないのですが、自己優位性の片鱗がうかがえます。「負けるが勝ち」という格言がありますが、むしろ人に手柄を譲った方が得をするという先人の知恵です。彼女は、最終的に自分を負けに近づけたようです。

 

5.一本気です。期待はずれが嫌いです

アメリカの文化では、自分を主張することは推奨されます。でも、自分を主張すれば何でもよい、というのとは違うでしょう。柔軟性のない認識は要注意です。例えば、資格を持った専門家が、自分の期待通りの素行をしないと切れてしまう人がいます。「こうあるべきだ」というのが強いのでしょう。第41回「怒りのコントロール」にあるように、怒りは期待と現実のズレから起こりやすいです(だから、「期待値を下げましょう」なのですが)。そして、柔軟で多彩な価値観を受け入れることが、怒りへの対策になります。

 

誰が正しい、ルールはこうだ、というのが問題ではなく、仮に相手が間違っていたとしても、それに対してどう反応したかが問題です。「怒り」によってか、それとも違った形でか。アンガー・マネージメント的には、そこに焦点を当てたい出来事でした。