最高の「怖れ」克服法
南米の大平原を走っていたわけです。チリ人の運転手と。見渡す限りはパンパと呼ばれる緑の平原と絨毯のシミのようなわずかの羊たち。
違和感のあるものが視界に入ります。人間が作ったフェンスです。このような特殊な場面だったからでしょうか、いつものフィルターが外れてはっと気付かされます。何かを囲って所有しようとするのはいつも人間だと。
ある時はホテルの一室で100km/hを超える強風が吹き荒れている窓外を見て。人間はこうして屋根を作り囲いを作ることで安全を手に入れようとするのだと。人間はコミュニティーを作り安全を作ろうとする。安定を作ろうとするといってもよい。さまざまなことをコントロールすることで、安定を得ようとする。予定を立てることもそう、屋根や囲いを作ることをもそう、何かを所有することもそう、保険をかけることもそう。コントロールすることで、不安定や危険、あるいは予期せぬことを最小限にして安定を得ようとしている。結果、私たちはストレスにまみれている。
予定を守るために急ぎ、人の予定と合わせるために神経を使い、所有したものがなくなったらどうしようと思い煩い、未来を先取りして憂う。サカナくんは言ったそうです。魚を狭い水槽に入れると戦う。大海ではお互い関知しないのに。このコントロールの繰り返しのルーティンの中に私たちは埋もれている。コントロールの原動力は「怖れ」。ある時は自然の脅威に対して、あるときは失うことに対して、あるときは責任を全うできないことに対して。
自然に出ること、あるいは旅をして日常から離れることはその対極で、危険(怖れるもの)と対峙することです。非日常です。そして気づく。世の中のデフォルトは不安定であると。天候は刻一刻と変化する。予期せぬことがいつ起きてもおかしくない。そこでは先をプランすることは無力で、柔軟さが要求される。これが実はデフォルト。私たちが本来いる世界。にもかかわらず人間はそれに逆らってコミュニティーを作り、安定を作ろうとコントロールに躍起になっている。
コミュニティーから離れて自然に出よう。旅をするならなおよい。非日常や不安定に身を置いてください。すると私たちが埋もれている小さな世界から出て、全体図が見えます。私たちは怖れにつき動かされていろいろなことをコントロールしようとしすぎている。自然の摂理である不安定のデフォルトに逆らって。
「コントロールをやめること」。
それが最高の「怖れ」克服法です。最初は怖いかもしれません。でも次の瞬間何が起きるかがわからないというワンダー(ワクワク、驚き、不思議)はきっとあなたを日常のルーティンから解放してくれます。そして幸せにしてくれます。