かつて、私が大きなメディカルグループに属していた際、研修医を指導する機会がありました。 その研修医が結婚カウンセリングについて学びたいというので、グループ内を探したところ、そのクリニックをマネージするトップの女性カウンセラーが、結婚カウンセリングの専門家であることがわかりました。 彼女はその道30年以上の経験をもち、研修医はおろか、私自身も結婚カウンセリングについて深く知る機会となりました。

その女性が推薦してくれたその道のバイブルともいえるのが 『The Seven Principles for Making Marriage Work』 (*1) というわずか300ページ弱の本でした。

結婚カウンセリングは困難なカウンセリングであることが知られています。 あるデータでは、35%が成功、18%のみが一年間効果が持続したとのことです。

結婚しているカップルに個別に会ってみると、同じ事象でも受け取り方が全く違うことがわかります。 人間というのはいかに主観的かということですね。 事実は 「薮の中」 ということも頻繁です。 そして、離婚や否やと一転二転することも少なくありません。 有名なテレビホストであるOprah Winfreyさんは 「あらゆる人間関係のなかで、結婚ほど努力を要するものはない」 と言っていました。 まさにこれほど苦難を強いられる関係はないかもしれません。

結婚カウンセリングがいかに困難か、Reader's Digestの “13 Things Your Marriage Counselor Won't Tell You” (*2) から、カウンセラーの本音を取り上げると 「正直に言うと、二人は一緒にいるべきでないと言いたい」 「毎週来るだけじゃ不十分」 「タオルがまっすぐじゃないぐらいいいじゃない」「配偶者があなたのすべてのニーズを満たしてくれると思わないで。 愛人、友人、マッサージ師…」「夫は妻の存在を終日気に留めずにいて、妻に夜の生活を期待するなんて土台無理」 などなど。 カウンセラー側の苦難も伺えます。

古典的な (そして、今でも典型的な) 結婚カウンセリングでは 「 “You” Statementではなく、“I” Statementを用いなさい」 ということで始まります。 つまり、「“あなた”がこうしたからどうなんだ」 と相手に対して責め口調で言うのではなく 「 “わたし” はあなたのこういったことで、このように感じた」 と自分を主語にして言うよう指導します。 そうすることで相手を責めることを避けるというものです。 そして相手は言われた言葉を繰り返し、批判的でなく (non-judgmental)、active listening (傾聴) の姿勢で対応します。

 

しかしこの方法は、息絶え絶えの状態にあるカップルにオリンピック級のパフォーマンスを期待するようなもので、土台無理があるというのが、Dr. Gottmanの意見です。 そしてこのタイプのカウンセリングは多くの場合うまくいかないとデータは示しているのです。 衝突を解決する方法に焦点をおいたカウンセリングは、再発率 (亀裂が再燃する) が高いことも知られています。

古典的方法の成功率が低いのは、 そもそも1960年代Carle Rogersが作り上げた 「個人」 のためのカウンセリング法を 「結婚」 に応用するという付け焼刃的な形で始められた歴史があるからと言われています。

さらに結婚については、様々な誤った 「神話」 があります。 「性格が結婚を破壊する」 「共通の趣味がないといけない」 「ギブアンドテイクが必要」 「衝突は避けなければいけない」 「不倫は離婚を引き起こす (20-27%に過ぎないと言われています) 」 「男性は結婚に向いていない」 「男女は違う惑星から来た」 などなど。

『The Seven Principles for Making Marriage Work』 は、この結婚という摩訶不思議な人間関係にメスを入れ、科学的データに基づいて結婚がうまくいくカウンセリング方法を確立したものとして注目されます。 それまでの慣習的な、科学的根拠を欠いた 「成功しない」 結婚カウンセリングを刷新したと言ってもよいでしょう。 著者は、結婚しているカップルの話合いや衝突の様子をビデオに撮り、何が成功し継続する結婚に必要なファクターかを解析しました。 結果、ものの5分でその結婚が破綻するかどうかを予測できると言います。

カップルに懸案のテーマについて話し合ってもらいます。 その様子をみて、彼らが離婚するかどうかを判断する基準は、

  1. 話合いの始まりが荒々しい。

  2. 非難する、軽蔑する、防衛的になる、壁をつくる。

  3. 一方が圧倒される。

  4. 身体的様子:強い緊張、動悸など

  5. 修復の試みの欠如

  6. 結婚に対するネガティブな記憶

この基準により、91%の確率で離婚を予測できるそうです。

『The Seven Principles for Making Marriage Work』 では、上記を踏まえて 「衝突しない関係」 でなく 「衝突しても結婚がうまくいく」 ための方法を詳述していきます。 「Friendship」 を維持し 「 Emotionally intelligent (感情的に知的な) 」 な結婚関係を作り上げる方法です。

それでなくても複雑な結婚という人間関係。 国際結婚であればなおさらです。 あるカウンセラーは 「言葉が不十分にしか通じ合わないのが、かえって距離ができてよい」 と皮肉を言いました。 文化的背景の違いも色濃く出やすいのがこの人間関係です。 国際結婚のカウンセリングをする場合、それを痛感します。

 

夫が主 (あるじ)、妻は従うという日本の伝統的形態も時代と共に変わりつつありますが、なお我々の遺伝子のなかに残っているようです。 婚前カウンセリングが日本でも行われてきていることは朗報です。 この人間関係には 「やり方」 があるのです。

冒頭で触れたカウンセラーは、Nancy Parks-Logsdonさんという方です。 この方が 「成功する結婚のための秘訣」 について下記のような無料セミナーを行ってくれます。 「The Seven Principles for Making Marriage Work」 のエッセンスを日本語同時通訳で講演してくれます。 結婚カウンセリングの本場アメリカで、その道の専門家からノウハウを聞く貴重な機会になるかと思います。 国際結婚の方、未婚のカップルにもお勧めします。