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「幸せ」 の心理学

「人生のゴールは?」 と聞かれると、「幸せになることです。」 と答える方は多いでしょう。

では、「幸せとは何ですか?」 と尋ねられると、答えに窮してしまう方が多いのではないでしょうか。

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実際、幸せを定義すること、測定することは、容易ではないようです。 近年、幸せを学問的に解析する流れが出てきています。 「幸せ」 の歴史と測定方法については、(*1,2) をご参考にしてください。 『幸せのメカニズム : 実践・幸福学入門』 著者の前田隆司は、幸せの因子を 「四葉のクローバー」 と表現して、以下のように挙げています。

第一因子

「やってみよう!」 因子 : 自己実現と成長

第二因子

「ありがとう!」 因子 : つながりと感謝

第三因子

「なんとかなる!」 因子 : 前向きと楽観

第四因子

「あなたらしく!」 因子 : 独立とマイペース

これ以外にも、幸せの分析はなされ、それを測定する尺度も出来てきています。

Countryside Wooden House

『Happy』 (2011年) というタイトルの映画があります。 冒頭では、発展途上国で人力車を引く仕事をする男性が、アメリカ人の平均よりも幸せであるというデータが紹介されます。 彼の家は、お世辞にも快適そうにはみえない掘建て小屋のようです。 道路は舗装されず、ブランド品にも縁がありません。

 

このドキュメンタリー映画は、幸せという漠然とした概念を学問的に検討した結果を紹介していきます。 かつて心理学は、「うつ」 などネガティブな側面にのみ焦点を当ててきました。 しかし、ここで人々が知りたい「幸せに生きるにはどうしたらよいのか」 という側面にもようやく光を当て始めたのです。

幸せは、遺伝子によって48%が規定されるとデータは示しています。 わずか10%が社会的地位や財産で規定されるようです。 残りの42%は、あなたが自らの意志で何を行うかということによって決まるようです。

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「お金」 は、幸せの指標として考えられがちですが、それが幸せ (感情的幸福) の度合いと比例するのは、年収7万5千ドルほどまでだそうです。 チャールズ・チャップリンも言いました。 「ある程度のお金は必要だ」 と。 ですがそれ以降は、「お金ではない」 のです。 これは物質、つまり車や家や装飾品にも同じことが当てはまります。 そういったものを得ることによる感銘は、せいぜい6か月ぐらいしか続かないとされています。 そして、さらに「もっと」 欲しくなるのです。

 

宝くじで大金を手にした人の人生が結果的に悲劇を辿ることを聞かれたことがあると思います。 参考までに、年収と幸福度の関係については、上記の年収以上でも比例するという研究結果もあることを触れておきます (*2)。 さらに消費については、物質として得るより、体験 (旅行、コンサートなど) として消費した場合の方が、幸福が長く続くそうです。

物質的なものに寄居する幸せは、持続が短いとされています。 地位や財産もそのカテゴリーに属します。 この場合、短い幸福の後、再び次の物質的幸福を見つけて追いかけなければいけないという 「快楽のランニングマシーン」 (*1) という、ゴールのない 「不幸」 の道が待っているのです。

 

これは一般にもよく語られることかと思いますが、実際データもそれを証明しているようですね。 一方、物質的 (地位財というそうです) でないもの (非地位財) は、健康、自由、自主性、社会への帰属意識、愛情などだそうです。 これらは逆に、持続的な幸福を提供するのです。

地位財と非地位財をバランスよく求めていくことも薦められています。 また、年齢を重ねるにつれ、より非地位財に重きを置くこともいわれています。

Above Table View

他のデータでは、アメリカの大富豪の幸福度は、7点満点中5.8点でした。 一方、マサイ族やアーミッシュは、物質的に大変質素ですが、5.4と5.1で大富豪達と大きな違いがみられませんでした (*2)。

映画のなかで、美貌をもった女性が、事故により美貌を失うどころか、顔面に後遺症を残してしまうストーリーが紹介されます。 その女性が多くを失うなかで、事故以前より幸せを感じるに至る経過が紹介されています。 外観や若さも幸せを必ずしも十分に説明しないようです。

映画内では、地位など自己イメージを重視する人は、不安や葛藤が高い傾向にあると言っています。 逆に 「自らの成長 Self Growth」 (他人との比較は、幸福にとって害のようです。 『幸せを科学する : 心理学からわかったこと』 大石繁宏著)、「仲間Relationship」 「他者を助けようという欲求 Desire to help others」 は、幸せとつながるようです。 前出の前田隆司の第一、第二因子とつながります。

Laughing Yoga

ハーバード大学でPositive Psychology あるいはScience of Happinessについての人気講義を持つTal Ben-Shaharによると幸せになるためのヒントとして、

  1. 自分や他人が人間であるということ、それ故に、ネガティブな感情を持ったり、ぶつけたりすることがあることを、受け入れること。

  2. 少ないことをよしとする : 質素さをよしとし、色々やり過ぎて愛する人と過ごす大事な時間を削らない。 量よりも質など。

  3. 運動 : ドーパミンはモチベーションにつながり、幸せと関連する脳内物質としてあげられます。 運動はドーパミンをあげる一つの方法です。

などがあるそうです。

前田隆司の第二因子にある 「つながり」 についてですが、人間関係のなかで大きな一つが結婚です。 結婚での満足感と幸福度は相関するようです。 しかし、二人のおしゃべり度や心配症度はマッチしなくても、税金やリサイクルなどへの 「価値観」 がマッチしていることが、より幸福度と結びつきやすいようです。 あるいは自己評価より、伴侶に対しての評価が高いことが結婚にポジティブに、そして幸福度につながることが結果として言われています (*2)。

国レベルの幸福度についても、地位財、つまりGDPとは必ずしも比例しないようです。 日本は経済的に豊かな国々のなかでは、最も幸せ度が低い国とされています。 「過労死」 が映画内でも、世界に特徴的な現象として紹介されています。

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デンマークは幸せ度の高い国として挙げられます。 無料の教育制度、社会福祉などが理由とされています。 「幸せ」 に配慮した国づくりが、特に日本には必要のようです。 ちなみに、映画内で沖縄は、長寿で幸せのモデルがある土地としてあげられています。 参考になるでしょう。

国の成熟とともに、地位財から非地位財重視へ移行していくことは、個人の成長と同じなのですね。 日本はそっちへ向かっていますか?

日本人の傾向として、現在も、高度成長的な地位財指向と勤勉さがみられます。 「ゆとり」 というものがうまく馴染まない土壌があるようです。 さらに勤勉に働くこと、この 「仕事」 というものが、前田隆司の第一因子の自己実現の筆頭方法として君臨しています。 勤勉な国民性は素晴らしいことですが、「幸せ」 ですか?

ところで、会社でもみられる 「フロウ」 という現象が言われています (*3)。 丁度、創世記のソニーがそうであったという向きもありますが、社員が一体となって難関を乗り越え 『ウォークマン』 など、凄まじい普段では達成できないようなことを実現する状態です。 スポーツでいえば、苦がそれほどなく、世界記録がでるような時です。

 

この 「フロウ」 というのはどこかで 「幸福感」 とつながるのではないかと考えられています。 そんな職場でなにかを達成するカタルシス。 これは素晴らしいことですね。 ちなみに、幸福度は、学業、経済的達成、健康、長寿などにポジティブな効果を与えるようです。 「笑う角には福来る」 ということでしょうか? 前田隆司の第三因子にもあげられています。

Smiling Friends

大石繁宏によると、幸せになるためにできることは、

  1. 感謝する。

  2. 満喫する。

  3. 他人にやさしくする。

  4. 最高の自分のイメージを持ち続ける。

などだそうです。

研究者によって違いはありますが、共通項も多く、幸せになるためにどうすればよいのか、参考になりますね。

ビル・ゲイツは、マイクロソフトでバリバリやっていたときよりも、現在の方が 「幸せ」 だと感じていると思います。 人間は競争心や生計、他者から評価されたいがために、到達点のみえない戦いを日々しているようです。 人生には不条理や、教科書には書いていないような見えないルールがあるようです。 ここではスピリチュアル的なことにはあまり踏み込みませんが 「戦わない」 「世間様の常識に翻弄されない」 ことで、「幸せ」 への道がみえてくるような気がします。

私がクリニックで出会う人たちと、幸せについて話し合うことは多いです。 究極的なゴールはそこだと思うからです。 例えば 「うつ」 が原因で受診した方の状態が改善しました。 しかしそれに留まらす、その方が 「幸せ」 へ向かっていく手助けをすることも我々の役割だと考えます。 そうすることで、その方は将来 「うつ」 を予防し、それとは対極の位置に自分を置けるからです。

 

また、私の領域では、「幸せになってはいけない」 と思う人や、「達成しても達成しても不十分と感じ、永遠にハードルを課していく」 という方に出会うことがあります。 前者は例えば、過去に何かの理由で自責感や自虐感が培われ、幸せになることを拒否する例です。 後者は、子供時代に親から妥当な評価を受けなかったことなどの理由で、果てしなき戦いを続け、いつまでも幸せになれないという現象です。 いずれも自己評価の低さと、自己成長の難しさが特徴でしょうか。 こういった方々の内面のリカバリーも大事な手助けです。

「幸せ」 の実体がはっきりしてきたことで、それへと向かうための道がみえてきたことは人類にとって朗報だと思います。

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