ADHDについて深く知る
ADHD (Attention Deficit Hyperactive Disorder: 注意欠陥多動性障害) は比較的高い頻度でみられます。 統計にもよりますが、Centers for Disease Control and Prevention (CDC) の2013年のデータによりますと、2011年には子供の11%がアメリカでは診断をうけています。 また2003年の9.5%から比較すると増加傾向とのことです。 この頻度の増加については諸説がありますが、この状態に対する意識が高まっていることが一つの要因と思われます。
さらには、大人のADHDも認識されるようになり、大人になっても約1/3は子供時代の状態が継続するとのことです。 総合して、一般人口の5~10%ぐらいの頻度などといわれています。
どのような状態かを説明するのに、ここでは診断基準を示します。
ADHD診断基準
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以下の不注意の症状のうち6つ (またはそれ以上) が、少なくとも6ヶ月以上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの:
不注意
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学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な過ちをおかす。
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課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である。
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直接話しかけられた時にしばしば聞いていないように見える。
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しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない (反抗的な行動または指示を理解できないためではなく)。
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課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
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(学業や宿題のような) 精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
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(例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、道具など) 課題や活動に必要なものをしばしばなくす。
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しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる。
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しばしば毎日の活動を忘れてしまう。
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2. 以下の多動性-衝動性の症状のうち6つ (またはそれ以上) が少なくとも6カ月以上持続したことがあり、その程度は不適応的で、発達水準に相応しない:
多動性
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学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な過ちをおかす。
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しばしば教室や、その他座っていることを要求される状況で席を離れる。
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しばしば、不適応な状況で、余計に走り回ったり高い所へ上がったりする (青年または成人では、落ち着かない感じの自覚のみに限られるかも知れない)。
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しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
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しばしば “じっとしていない” またはまるで “エンジンで動かされるように” 行動する。
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しばしばしゃべりすぎる。
衝動性
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しばしば質問が終わる前にだし抜けに答えてしまう。
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しばしば順番を待つことが困難である。
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しばしば他人を妨害し、邪魔する (例えば、会話やゲームに干渉する)。
不注意型の場合、9つの項目のうち、6つ以上があてはまります。 多動性—衝動性型の場合も同様です。 双方を同時に満たす場合を、混合型と呼ぶ訳です。
落ち着きがない子供、白昼夢をみる子供、話を聞いているようで聞いていない子供、忘れ物が多い子供など、基準の幾つかが、6ヶ月以上にわたり、しかも7歳以前より、複数の場所で (家、学校など) みられる場合、診断が疑われます。 さらにその症状が、学業や社会機能に影響を及ぼしていること、自閉症などのほかの診断によるものではないことなどが条件として付きます。
ですから、診断が軽々しく用いられるべきではなく、きちんとした問診、病歴、診察などを受けることが大事です。 面接によるそういった評価が、診断のための最も重要なものとされています。 さらには、家族、教師などからの情報、知能検査を含む様々な評価尺度などが用いられ、総合的に診断が行われます。
ADHDは脳が原因でおきる状態だとわかっています。 では、どのようなことが脳でおきているのでしょうか?これには様々な検討がなされ、多くのデータの蓄積があります。 ドーパミンとよばれる脳内物質の変化、脳波上の変化など、様々ですが、NIMH (国のメンタルヘルスの機関ですね) が2007年に報告した結果を示します。 ADHDの子供の脳の発達を視覚的に示したものです。 ADHDがみられない子供と比較しています。 こちらをご覧ください。
結果、ADHDをもつ子供の脳の成長は、多くの大脳皮質で、2~3年遅れがみられました。 通常7歳半までに脳の成熟がみられるのが、ADHD がある場合、10歳半ぐらいになるようです。 注意や行動の制御に関わっている部位での遅れが、ADHDの症状と関連しているのではという考察です。
詳細はこちらをご覧下さい。
一方、遅れはあるものの、脳の発達が追いついてくるという事実は、ADHDの子供たちの多くがこの状態を年齢とともに克服していくことと一致する訳です。
診断について先に触れましたが、脳の画像検査を含めて、この検査をすれば診断ができるというものは未だにありません。 しかし2013年7月に、FDAが初めての診断テストを認可したということで話題になりました。 これは、NEBA System (Neuropsychiatric EEG-Based Assessment Aid) と呼ばれるもので、脳波をもとにした検査システムのようです。 このテストにより、診断の正確さが20%ぐらい上がったとのことです。 しかし、そうはいっても、これのみで診断ができるというものではありません。 あくまで診断の支えというのが実状のようです。
治療法で最も効果があるのは、薬物療法といわれています。 お子さんにお薬をというのは、抵抗がある方も多いのですが、必要な場合によく医師と相談して考慮していくというのが現状です。 しかしそれと並行して、あるいはそれ以前にやっておきたいことはたくさんあります。 いわゆる行動療法などです。 認知行動療法と呼ばれるものもありますし、親のスキルアップの教育、ソーシャル・スキル・トレーニングというのもあります。
司馬理英子医師による『ADHDのび太・ジャイアン症候群』というシリーズは、日本では参考にされる方が多いようです。 親の接し方、教師の接し方、先の行動療法などについて書かれています。 そういった情報を参考にした上で、医師などと一緒に取り組むことが望まれます。
ADHDについてのセミナーを以下の日程で行います。 この状態についてさらに知識を深めていただくために、上記に示したような内容を具体的にお話しします。