アンチエイジングの心理学 2

The task of being old is as beautiful and sacred as that of being young
-Hermann Hesse

今回は、どのようにエイジングを受容していくのかについておはなしをします。

これに関していわれている様々なことを総合しますと 「加齢による新たな価値を見いだすこと」 ということになるでしょうか。

古来、人間の発達段階を説明する理論がエリクソンやフロイトにより提唱されてきましたが、ここでは特に老年期に関わる幾つかの理論を紹介します (*1)。 これらはより高齢者のかたのエイジングと関連してきます。

ベックによる 「老年期の自我発達理論」 によると、

1.「自我分化」 VS 「仕事役割没入」

これまでの経験を生かしながら、新しい役割や趣味などをみつけ、その中での人間関係などに価値を感じ、新しい自己像をつくる 「自我分化」 に対し、それまでの仕事や価値観にこだわり、変化を喪失と捉えて生活に不満足感をもつ 「仕事役割没入」。

2.「身体超越」 VS 「身体没入」

老化による体の状態に適応して幸せを見いだす 「身体超越」 と、逆にこだわり不満足感をもつ 「身体没入」。

3.「自我超越」 VS 「自我没入」

死という危機を意識しながらも、考え方を転換し価値ある行動を残そうとする 「自我超越」、死にこだわり自我の危機を感じて人間関係などに無意味さを感じる 「自我没入」。

またライチャードの 「5つの人格特性」 によると、

《適応的》

  1. 円熟型 : 人生を受け入れ、未来志向的、積極的に社会参加し建設的である。

  2. 安楽椅子型 : 責任から解放されたことを喜び、楽に生活しようとする。

  3. 防衛型 : 老化不安を活動することで抑圧または自己防衛する。

《不適応的》

  1. 外罰型 : 過去や老化を受け入れられない。目標が達成できないのを他人のせいにする。

  2. 内罰型 : 自分の人生を失敗とし、原因も自分とする。死は自分を解放してくれる。

エイジングがより広い年齢層で語られる今日、老年期にない方も参考になるのではないでしょうか。 ベックの好対照なタイプ、そしてライチャードの適応の様々な形。 「加齢による新たな価値を見いだすこと」 そして外見を含めた加齢変化を受容することが、より豊かな老後のこころのあり方につながるのではと考えさせられます。

The Art of Growing Old (*2) の中で、

若さを失うことは、一種の喪失体験です。 ひとは何かを失うと、何か新しいものが巡ってくるといいます。 このプロセス自体が Bereavement であり、それがうまくいくゆえんです。 傷ついた自己愛が癒えた頃、われわれの中に芽生えた新たな美しさに気づくでしょう。

といった内容のことが書かれています。

また、“身体というものの位置づけが、われわれが所有するもの (body one has) から、われわれ自身 (body one is) にかわる過程である” とも書かれています。

ところで、なぜ人間は年老いた身体を醜いと感じるのでしょうか。 生殖能力、生物繁殖の視点から、われわれの中に遺伝的に組み込まれているのでしょうか。

The Art of Growing Oldの作者は、ある機会に高齢者の身体ばかりのスライドを多数見た経験を語っています。 最初は 「醜い」 「自分をみるよう」 だったのが、少しずつポジティブに変わり受容へ近づいていく過程が書かれています。 新たな価値観が形成されていく一つの過程でしょうか。

高齢者のモデルのみを使ったファッションショーや写真集なども価値観に影響します。 昨今、一昔前とは比較にならないぐらい、中高年を対象にした商品や情報などが増え、かつての 「高齢者」 というネガティブなイメージとは異なるフレンドリーな形で提供されています。 朝日新聞の 「どらく」 などというサイトは、中高年独自の価値や豊かさを取り上げ、そのプレゼンテーションはイメチェンに大変貢献していると思います。

The Art of Growing Oldの中でも、メディアがエイジングについて恐れさせ、ネガティブなイメージを大衆に与えることに対して警告を発しています。 逆にもっとエイジングの価値を礼讃してもいいのではといっています。

ところでThe Art of Growing Oldでは、“エイジングを受容する利点として、完全に自分を放棄して他人に預けられる、そして彼らの助けを受け入れられる”ことをあげています。

うまく年を取っている方をモデルにするのも良いかもしれません。

すでに引退した名テニスプレーヤーのビヨン・ボルグは現在57歳ですが、かつてのライバルであるジョン・マッケンローをして 「よい年の取り方をしているね」 といわしめました。 実際、きれいなグレイヘアーと風貌に気品が漂います。 現役時代よりむしろ魅力的ではないかと思うぐらいです。

エイジングの中にどのように新たな価値を見いだしていくのか。 ユニークな一例を示します。 閉経は女性にとって大きな変化です。 ジャレット・ダイヤモンド (UCLA地理学教授 / ピューリッツアー賞作家) は、女性の閉経を社会人類学的、生物学的にみると 「妊娠に伴う身体へのリスクを減らし、子孫 (孫など) をケアする時間をもつためだ」 といっています。 また閉経により、女性の存在意義を否定したような前都知事の発言を痛烈に批判していました。

エイジングの先には、死への恐怖が見え隠れします。 壮大なテーマで、到底ここでは手に負えませんが、昨年亡くなった 「戦後最大の思想家」 吉本隆明さんは生前、老化は連続しているものだが、死はその先にあるとは限らない。 子供のときにも死は訪れうるし、老化とは別もの。 といったことを書いています (*3)。 彼のエイジングや死生観にご興味のあるかたは一読を。