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被災地の「こころ」1

今、東北の被災者の方たちの 「こころ」 の状態を想像できますか?

それとも、震災関連の話はもう食傷気味ですか?

 

以下は、私が6月に被災地入りしたときの日記からです。

Image by Jonathan Ford

6月4日


ある避難所は、入所者70数名のための体育館のようなところ。 主に高齢者とその家族が、床に段ボールのベッド、形だけ段ボールでしきられた “部屋” という造りに住んでいます。 比較的安定した人たちで、さりげなく話しかければ十分に会話が可能。 震災に関しては、「考えないようにしている」、 「耐えるしかない」 と言う一方、津波の様子をありありと表現される。 「車が目の高さを通って行った」 「天井あと5センチまで水が来た」。 今朝あった地震に対しては皆過敏。
(イラスト:避難所のダンボールベッド)

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6月5日


あるところで出会った男性、妻を亡くし、親戚からも生き残ったことで責められる。 本人も自分の責任だと信じているが、話をきくと一人で逃げるしかなかったよう。 こちらが 「そうではないですよ」 というと、そうですか? そうですか? とほっとしたように確認してくる。 「今後どうしてよいかわからない」。 他の家族とは音信不通。 身寄り他になし。 他の男性、非常にハイソな人生を歩んできたが、震災後、自宅全壊、避難所の 「豚の食事のような」 食事になじめず、車で生活、肺炎をおこし、体重減少。 家族と疎遠。 「早く楽になりたい」。 かつての彼からは想像もつかないが、シャワーを拒否し、「もうどうでもいい」。

6月6日


ある人は、浸水した自宅二階で1週間生活し、自衛隊に救出されましたが、「風で揺れる木をみると、震えてしまう」 「睡眠剤で眠れるけれど、まだラジオを聴く気にはなれない」。 夫をなくし、自宅全壊の入所者は、度重なる外部からのボランティアによる心無い質問の繰り返しに、「思い出したくないことを何度も聞かれる。から元気でなんとかやっているのに」 と、傷を何度も突かれる痛みを吐露した。 3か月の避難生活で、仮設住宅を待つフラストレーションは非常に高い。 報道によると、仮設住宅建設予定の48.5%しか完了していないよう。 抽選による分配が行われている。 「フェアでない」。 仮設住宅が不便なとこにあることへの不満も強い。

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あれからさらに3ヶ月が流れた。 8月24日現在、宮城県をとると、避難所は175件、避難者数は約6000人。 急性期の舞台となった避難所は徐々に役目を終えつつある。 私の知っている避難所も今月末の閉鎖が決まった。

 

被災地がある一定のスピードで回復していっていることは確かである ( 復興の推移は こちら をご覧ください )。

もちろんこれは 「復興」 完了を意味しない。

阪神大震災で被災したある方は、8年間にわたり避難所、仮設住宅などでの生活を続けた。 彼の経験から5年10年単位の支援が必要と言う。今回の震災では、がれきの撤去のみで3年かかるとの試算がある。 建築家の安藤忠雄さんは、「桃・柿育英会」 という震災遺児育英資金で、一人一年一万円の募金を十年続けていくそうだ。

ヒトの 「こころ」 は恐るべき能力をもっている。 50年以上前の少女時代に虐待を受けた女性は、その後の50年間、このことを思い出すこともなく幸せに過ごしていた。 そして、おばあちゃんになって、孫娘の誕生日パーティーに出た時、突然50年前の記憶がよみがえったという。 激しく、つらい感情を伴うほど、記憶は脳の奥深くにすりこまれる。 阪神大震災の記憶を、認知症をもつ人々で調べると、感情を伴う記憶を司る 「扁桃体」 という脳の奥深くにある部分の大きさと関連があったという報告がある (http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/reprint/156/2/216)。 つまり、このあたりが、感情を揺さぶられた経験がいつまでも保存されている場所のようだ。

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ヒトは太古から、自己防衛のために身の危険を感じるような経験の記憶を、「こころ」 に焼き付けてきた。 そうすることで、この危険を忘れず、常に自己への警告とするために。 結果、マンモスから身を守り、種を維持するために理にかなったシステムな訳である。 しかし、同時に、悲しいかな、このシステムが一定の割合の人を、つらい記憶によって、永く苦しめることになる。

メキシコのコズメルは、世界でも1、2を争う美しいダイビングスポットである。 しかし、ハリケーンにより最近、その美しいさんご礁や自然が破壊された。 ダイビングに詳しい人によると、その 「復興」 は5年10年の時間が必要とのこと。 自然はこのようなサイクルを、これまでも、気の遠くなる時間繰り返しているのだろうか。

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