「メランコリー」の状態にある人は、エネルギーが減退していますが、その分、少ないエネルギーを有効に用い、絞った焦点に力を集約しうるともいわれています。 現状や自分への不満足、悔恨が人間の原動力になるというのもあるでしょう。

人類はその歴史の長さだけ、「うつ」とともに歩んでいます。 遺伝学的には、生物の生存のために不要なものは淘汰されていくはずです。 「うつ」が存在し続けるのは、生物学的理由があるのではないかと考える研究者達がいます。 もちろん答えはまだないのですが、上記のような見方がその一つの説明となるかもしれません。 多くの偉人達がこころの問題を抱えていたことはよく知られています。 トルストイ、ヘミングウェイ、ダーウィン、ベートーベン、ニーチェ、チャーチル、ディケンス、ゴッホなどなど(国レベルの家族団体 (National Alliance on Mental Illness: NAMI) のウェブサイトをご参考にして下さい)。

芸術家の中には、うつなどの気分の問題の率が高いことが知られています。 文筆家は、「うつ」など気分の障害の頻度が5倍高かったことも報告されています。

「うつ」や気分の障害と創造性が切り離せないことは多くの知見からわかってきています。 彼らをより複雑な人間にし、ある心理的領域での傑出が彼らの偉業とリンクしていくということでしょう。

「うつ」は大変つらいものです。 このつらさを正当化することはできません。 ただ、リンカーンは奴隷制廃止という偉業とともに、彼の「うつ」との格闘によって何かを後世へ伝えているのではないでしょうか。

リンカーンは、メディアやテレビ、映画などで取り上げられる世界の偉人のうち、イエス・キリスト、ナポレオンに続いて世界で第三位の頻度だそうです。 このあまりにも有名で、アメリカが誇る人物であるリンカーンのあまり知られていない側面は、今も様々な証言や文献などで検証されてきているようです。

リンカーンの写真を改めて見つめてみて下さい。こけた頬、乱れた髪、厳粛に閉じられた厚い唇。彼の悲しさと格闘が伝わってきませんか?

(「リンカーン」のメランコリー 終)

マインドフルネス×脳科学 久賀谷 亮 Akira Kugaya,​ MD PhD