側近さえゆらぐなか、反対勢力への不利な状況にもひるまず、彼は突き進みます。 映画の中では、肉親との関係さえ、優先順位を下げることも厭わない彼が描かれています。

有名な彼の演説の数々は、人々の心に届き、聴衆は彼が言う言葉を彼自身心から信じていることを感じ取りました。 彼は、自分の本当の気持ちに正直で衆前にもオープンでした。このような彼の人間性が大きな原動力だったことは間違いないでしょう。

彼は世界を、「不完全な人々が乏しいものから最善を見い出さざるをえない不完全で悲劇的な場所」ととらえていました。 この視点は、彼の状態の悪い時は、よりつらい場所へ彼を追いやり、彼の状態がよい時には、そこから何か見返りを見い出そうとする彼の情熱に火をつけました。

「うつ」が彼の偉業の助けになったとする別の視点として、「うつ」にみられる悲観的な考え方があげられます。 とかく現代は、ポジティブ、ポジティブと奨励し、カウンセリングもこのポジティブさを単純に目指す嫌いがあります。

 一方、ネガティブな視点が、より物事を精確に捉えうることを提唱する学者たちがいます。 “Depression realism”などとも言われますが、うつで悲観的な時、装飾を排除し、安易な楽観視を避け、より客観的に物事や状況の本質を的確に見極める能力のことです。 この能力は、取り巻く状況が危機的であればあるほど、その真価が生きるといわれています。 つまり、4年続く泥沼の南北戦争の危機のなかでこそ、リンカーンの「悲観的な見方」が状況打破に不可欠であったという可能性です。

(「リンカーン」のメランコリー 4: うつの潜在力に続く)

マインドフルネス×脳科学 久賀谷 亮 Akira Kugaya,​ MD PhD