リンカーンは生前「うつ」を患ったことが知られています。 アメリカ史上、偉大な大統領として数えられているリンカーンが「うつ」に苦しんでいたとは以外に感じるかも知れません。

この経緯を詳細に分析したノンフィクションに『リンカーンのメランコリー』(参考1)があります。 メランコリーというのは、「うつ」あるいはその傾向を表現するものです。 この19世紀の歴史的偉人の知られざる側面を、残存する資料をもとにひも解いています。

このようなエピソードは一度にとどまらず、その後も続きます。 このことは、最初のエピソードが単に喪失体験ではなかったことを示唆します。 2度目のエピソードは1840-41年の冬であり、仕事の忙しさからくるストレス、天候も手伝って、彼は同様の症状に陥ります。 彼自身周囲に、希望のなさ、悲惨な気持ち、死にたい気持ちを語っており、彼は働くことができない状態でした。 その後も繰り返す「うつ」に、政治家として活動する合間にも、顔を手で覆いながら悲しみにうなだれるリンカーンの姿が、幾度となく周囲から気づかれています。

彼の「うつ」にはどのような要因があったのでしょうか? 彼の両親も「メランコリー」の傾向があったといわれています。 リンカーン自身、彼の母親を「知的でセンシティブであり、どこか悲しいところがあった」と表しています。 父親、さらには彼の家系(叔父、いとこ)などにもこころの問題があったことが伝えられています。

リンカーンは9歳のとき、母親を疫病で亡くしています(叔父と叔母も)。 その後しばらくして、彼の父親は何ヶ月も子供たちを残して町を離れます。 再婚のため戻ってくるまでの間、リンカーン達は劣悪な環境で、彼曰く「哀れと言わないなら、悲しい」時間を過ごします。 母亡き後、父親からの心情的サポートが不在であったことは、まだ幼い彼に多大の影響を及ぼしたことでしょう。 父子の間に愛情があるのか、周囲はいぶかしがったようです。 リンカーンが勉学を強く望んだのに対し、父親は農場の仕事を手伝わない彼に手をあげたこともあるようです。

ただ、当時の子供達は、15歳になるまでに4人に1人がいずれかの親を失っていたようです。 それだけ疫病など命を落とす理由が蔓延していたということです。 実際、19世紀の18人の大統領のうち、9人がいずれかの親を子供時代に失っています。 つまり、リンカーンが母親他の家族を失っていたからといって、それが即、彼のその後の「うつ」の理由にはならないということです。

  (「リンカーン」のメランコリー 2: 繰り返すうつ続く)

  1. Shenk, JW. Lincoln's melancholy: How depression challenged a president and fueled his greatness. Mariner Books 2006

マインドフルネス×脳科学 久賀谷 亮 Akira Kugaya,​ MD PhD