かつて「心の風邪」と言われたうつ病(*1)は、一生で5人に1人はかかる病気とわかっています(*2、*3)。

今では脳の病気であることも広く知られています。

一言でうつ病と言っても、それは一枚岩でないことが推測されてきました。いわば「症候群」ともいうべき、さまざまなタイプが混在すると思われていたのです。

ここ10年で最も重要な研究の一つと思われる論文(*4)をご紹介します。

ニューヨークにあるコーネル大学などの研究者は、fMRIを用いて脳内回路の連結具合から、うつ病が4つのタイプに分けられることを示しました。

1200人近くを対象にした研究からわかった各タイプのそれぞれの脳回路異常は以下のようです。

  • タイプ1:前頭葉線条体・前頭葉扁桃体回路と辺縁系回路の連結低下

  • タイプ2:辺縁系回路の連結低下

  • タイプ3:前頭葉線条体・視床回路の連結上昇

  • タイプ4:前頭葉扁桃体回路の連結低下、前頭葉線条体回路の連結上昇

fMRIのデータをもとに精緻な解析が行われ、どうやらこの4つのパターンが存在するとわかったのです。うつ病は一つではなかったのです。

各タイプには、幾つかの特徴的な症候が見られます。

  • タイプ1:不安、倦怠感

  • タイプ2:倦怠感、エネルギーの低下

  • タイプ3:快楽消失、精神運動抑制(動きや思考の遅さ)

  • タイプ4:不安、快楽消失

そしてこれらの症候は、脳の回路の異常から予測される症状とよく合致していました。

  • タイプ1、4:前頭葉―扁桃体回路(恐怖に関連)の連結低下:不安

  • タイプ3、4:視床―前頭葉線条体回路(快楽に関連)連結の上昇:快楽消失、精神運動抑制

  • タイプ1、2:前帯状皮質と眼窩前頭皮質回路(意欲に関連)連結の低下:エネルギーの低下、倦怠感

 

私たちが臨床的にアセスメントをする症状と脳のメカニズムがつながった瞬間です。

うつ病の診断はその症状に基づいて行われますが、このタイプ分類は、各症状だけよりも治療への反応性を予測するのに優れていました。

rTMS という磁気を用いた治療はうつ病の治療ですが(*5)、特に背内側前頭前野(ここが各タイプに共通して重要でした)を刺激したrTMS治療では、タイプ1が 82.5%という圧倒的な治療成績を示しました。つまり、このタイプ分類は治療の選択や病状の経過を予測するのにも有用だったのです。

当クリニックでは長年rTMS治療を行っていますが、まさに脳をデザインするこの治療で、本研究が提供するメカニズム(特に症状と脳回路、治療反応性の関連)は大変参考になります。これを踏まえ、さらに治療の精度をあげることが可能になるのです。

《参考文献》

  1. BBC News Japan 「日本はいかにうつ病を信じるようになったか」

  2. 厚生労働省 「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス うつ病」

  3. Hasin DS, Sarvet AL, Meyers JL, et al. Epidemiology of adult DSM-5 major depressive disorder and its specifiers in the United States [published online February 14, 2018]. JAMA Psychiatry. doi:10.1001/jamapsychiatry.2017.4602

  4. Drysdale, A. T., Grosenick, L., Downar, J., Dunlop, K., Mansouri, F., Meng, Y., ... & Schatzberg, A. F. (2017). Resting-state connectivity biomarkers define neurophysiological subtypes of depression. Nature medicine, 23(1), 28.

  5. TransHope Medical TMS磁気治療