日々是好日

2年近く前ですけども、あるヨガスクールで講演をさせていただきました。その際、マインドフルな映画として『あん』を取り上げさせていただきました。この河瀬直美監督による作品では、どら焼きの中に入れるあんを作る工程が、詳細にそして繊細に描かれています。その様子は、近著『無理なく痩せる脳科学ダイエット』(参照)でも触れさせていただいています。つい先日、同じヨガスクールで講演会を行ったところ、2年前にも参加されていた方が歩み寄ってこられ、「この映画もマインドフルですよ」と教えてくれました(ところで、どちらも樹木希林さんが出演しています)。それが『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』です。

日本滞在中には、残念ながら映画を観ることはできませんでしたが、原作となった小説を読みました。作者の森下典子さん自身が、25年にわたって茶道を習うなかで出会うさまざまな気づきが取り上げられています。

「頭で考えようとしないこと」という章では、一生懸命作法を覚えようと月日が経った後に、ある日突然体が自然に動く瞬間が描かれています。それを評して、「一つ一つの小さな仕草を正確に繰り返すことで、たくさんの『点』を打つ。点と点が、いっぱい寄り集まって、だんだん『線』になる」。

ところが一度疑いが起こると、また考え始める。すると先生曰く、「頭で考えないの。手が知っているから手に聞いてごらんなさい」。

これは人間の頭が考えやすい性質を持っていることと、学習を繰り返すことによって習慣化していくことを示しているようです。いわゆる「ゾーン」に入った状態でしょう。

この本では作者が意識をされてか、マインドフルネスにつながるタイトルが目白押しです。「見て感じること」という章では、先生のお点前を見ながら音楽を目で聞いているみたいと感じます。先生は「よく見なさい。見て感じるのが勉強よ」といいます。手順を間違えなくするだけではないものがあるという気づきが生まれます。

茶道ではさまざまな仕掛けによって、四季を感じ取る作り込みがなされているようです。作者は五感を使って四季を感じたり、「自然を感じる」力が徐々に研ぎ澄まされていきます。

注意を向けるというエッセンスを持つマインドフルネス。しかしそれを続けていくことも決して単調な道ではありません。その道に疑いを持ったり、飽きてしまったり、続けることを阻むことが起きたり。この小説は、茶道というものを通して何かを続けていく長い道のり、そして続けるが故に見えてくるものについて、非常にすがすがしく伝えています。

 

作者は人生の波風を過ごしながら、線として続ける茶道がいつしか自分の軸になっていることを気づきます。そして「長い目で今を生きること」という、いわば境地に達するのです。お茶というのが、人生につながっていくところが何よりいいですね。いろいろな意味で私たちにメッセージを語りかける小説です。よろしければ映画あるいは小説を手に取ってみてください。ローカル線に揺られながら、読んだ小説は格別でしたよ。

日日是好日
森下典子著(新潮文庫)